株価がどうなるか経済学のプロは分かるのか

最終更新日:投稿日:金融・経済

「私の買った投資信託は上がるのか、下がるのか?」、将来の景気や金融市場の予測は経済学を学べば可能か

NEW株価がどうなるか経済学のプロは分かるのか

過去数十年の株価を振り返ろう


前回ブログで「34年ぶり円安!」について書いたが、その後ドルは一時160円(‘24/4/29)まで上がった。このままドルがもっと高くなるのか。専門家の見方は、160円以上はないとの見方が多いが、日本の貿易赤字の拡大や米国大手IT企業の日本での需要増加による円売りドル買い実需の増加、(そして日本の輸出企業の海外移転による国内製造空洞化による輸出増の難しさ(通常円安になれば輸出が増え円買い要因))を考えれば、金利差が多少小さくなってもドル高という見方もある。それでは、2013年のようなドルが75円になることはないのか。 

株価はどうだろうか。現在、S&P500やNYダウ、ナスダック(この米国を代表する3つの株価指標は概ね似た動き)の投資信託など米国株を買っている方は、今ドルが上がり株価も上がってホクホクのはずだ。5月18日には、NYダウが4万ドルを超えた。25年前に1万ドルを突破したので、25年間で年率16%上がっていることになる。一方、日経平均(株価)は、1989年の最高値39,098円を抜いたのが本年3月で、為替のドル/円のように最高値更新まで実に34年間を要した。34年間上昇率0%だったことになる。 

しかし、米国株指標の過去の動きをリスクの観点から見ると、米国でもぞっとすることが頻繁に起こっているのだ。米国株の指標の1つナスダックは、アップル、マイクロソフト、エヌディビア、メタ(フェイスブック)、アルファベット(グーグル)、アマゾン、テスラなど米国の株価上昇を牽引した巨大テクノロジー企業を中心とした銘柄構成だ。そのナスダックは、ITネットバブルと言われた2000年3月に最高値5,132ポイントを付けた後、2002年10月には1,108ポイントまで下落した。2年ちょっとで実に78%下落したのだ。最近では、2020年新型コロナでS&P500は、約2ヵ月足らずに34%下落した。また、過去には、1987年NYダウが一日での最高下落率22.6%の記録がある。いわゆるブラックマンデーだ。更に、2008年の米国リーマンショックの時には、S&P500が約1年で56%を超える下落をしている。 

翻って、日経平均を見れば、1989年の最高値39,098円から2008年に26年ぶりの安値を付け、一時7,000円を割った。この18年間で見れば82%下落したことになる。また、米国ITネットバブル時の日経平均は、2000年から2003年の3年間で63%下落している。更に、リーマンショックの2007年から2008年の1年程で62%下落している。 

皆さんを脅すわけではないが、下落だけを抜き出すとざっとこんな具合で、これが実態である。このような下げのタイミングで、当時なけなしの退職金を金融機関に勧められ投資信託等に投資し、損失に耐えられず泣く泣く解約した方を私は沢山見てきた。 

経済政策の実態


では、経済学者など経済のことをよく分かっている専門家は、この株価の乱高下を予測出来るのであろうか。 

先ほど、1989年日本のバブル崩壊で日経平均が高値を抜くのに34年間要したと書いた。NYダウは、この34年間で14倍程になって、欧州や韓国などアジア諸国も数倍、数十倍になっている。何故日本だけが低迷したのか。1990年前後の不動産バブルがひどくその後始末に時間を要したとよく言われるが、34年とは如何にも長すぎる。1989年当時の日本の一人当たりのGDPは、米国とほぼ同じ世界でトップクラスであったが、今は米国の半分強程度まで下がった。当時、日本の半分以下であった韓国にも現在は抜かれ世界38位だ。この日本経済の体たらくぶりは政府の経済政策が間違っていたのか?資本主義経済が機能するにはデフレは最も避けなければならないが、34年間日本は世界で最も物価が上がらない国になり、デフレ克服が課題であった。 

金融緩和は是か否か


過度のインフレはまずいが、資本主義が機能するには緩やかなインフレでなければならない。その理由はここでは割愛するが、2013年に黒田日銀総裁になり、世界でも希有の超金融緩和施策を日本は採った。安倍総理も「3本の矢」と称しデフレからの脱却を目指して、金融緩和施策を後押しした。2%インフレを目指したのだが、結局黒田日銀総裁が2023年退任迄2%のインフレ恒常化は果たせなかった。では、金融緩和施策が経済政策として間違っていたのだろうか?ノーベル経済学賞受賞クルーグマンらリフレ派の理論により、経済政策として世界中で金融緩和政策が取られた。実は、この金融緩和政策が経済に有効かは、経済学の中でも長年大きな論点であったのだ。これが正しいかどうかは、ノーベル経済学賞を取るような専門家でも意見が分かれるのだ。マネタリストという経済学派でノーベル経済学賞受賞のフリードマン(1976年受賞、最も有名な経済学者の1人)は、経済政策として過度の金融緩和政策には否定的であった。シカゴ学派のノーベル経済学賞受賞ルーカスは、合理的期待形成理論で長期的にはもちろん短期的にも金融政策は効果をもたらさないと証明した。素人が考えれば、金融緩和して経済が良くなるの?そんなに経済って簡単なのと思うであろう。 


財政赤字は是か否か


経済学の中で今注目されているのが、MMT(モダンマネーセオリー、現代貨幣理論)である。これは、簡単に言うと、従来の経済学の貨幣の定義の前提を覆して、財政赤字を気にせず(理論詳細は割愛)、需要が足りない時は積極的に財政支出をすべきというものである。新型コロナの時に、米国をはじめ各国が財政赤字に目をつぶり財政支出を大幅に増やして、財政赤字が記録的水準に達した。例えば米国は、失業保険に月50万円程給付した(週600ドルに300ドル上乗せして900ドルにした)のだ。これらの政策により新型コロナで経済が破壊的ダメージを受けるのを阻止出来たとも言われている。米国NYダウをはじめ株価も1年足らずで新型コロナ前に戻した。一方、今の米国は、この財政支出を大きくした影響で、高インフレになり雇用も過去最低の失業率になり人手不足で景気が過熱しすぎていると言われている。実は、今までの経済学の考えでは、中央銀行が国債を買って財政赤字を穴埋めすることには否定的であったが、MMTは一定の条件下ではむしろ積極的にやるべきというのだ。 

保護主義は是か否か


今の米国は、自国の産業を守るために関税を上げたり、IT関連に補助金を大幅に増やすなど保護主義的な政策を取っているのが特徴だ。米国は、太陽光パネル、EV自動車などを中国が安価で輸出するのは中国政府の補助金があると非難し、中国へIT関連輸出入規制をかけるのは安全保障上の理由と言っている。この保護主義的な政策は、経済を強くするのか否か。第二次大戦後、ソ連を中心とする共産主義と欧米西側諸国の資本主義の戦いがあったが、資本主義が経済的に大勝利を上げた。資本主義は欲(経済用語では効用)の最大化を是として成り立ち、政府が経済になるべく介入せず(小さな政府)、民間が自由に経済活動をすることで経済が活性化するので、保護主義は避けるべきという考えであった。一方、各国の経済の歴史を見ると、資本主義であっても政府が一定の介入をして計画的な経済を主導した方が成長するという意見もある。例えば、日本経済が最も成長した高度成長期1960年代は、通産省が様々な指導や計画をしていた時である。中国が新型コロナ前10年程、世界で最も高成長を果たしたが、経済は資本主義を取り入れたものの、政府による介入は大きく社会主義的であった。米国も大恐慌前の1930年代が最も成長が高かったが、政府の計画等の影響が大きかった。東南アジアで経済的に最も成功を治めているシンガポールは、民主主義国家とは言えず政治参加が制限されていて、資本主義を採用しているが開発独裁と言われるほど一部リーダー層が経済を主導している。そして、今の米国は、今までの経済学の常識、政府の介入が少ないほど経済は強くなるに逆行して、ITやEVを中心に政府による補助や保護主義的政策を取り入れている。 

 

科学は発展中

ここまで見てきたように、金融緩和政策の効果の是非、財政赤字の是非、保護主義的政策の是非など経済にとって基本的なところでも、経済学者の意見が全く一致していないどころか正反対の考え(学派)があるのだ。ノーベル賞級の経済学者(学派)の中でも大きな対立があり正解はないのが実情である。 

各国政府は、経済学の専門家の意見を取り入れ経済政策を行っている。つまり、秀でた経済学者の基本的な経済政策の処方は一致していないので、正反対の政策が取られると結果はかなり異なることになるであろう。日本が、ここ10年で超金融緩和という金融政策より、財政赤字を気にせず財政支出増加の政策に重きを置いていれば、もっと日経平均株価は上がっていたかもしれない。日本は、財務省のプライマリーバランス重視(財政法に赤字公債発行禁止がある)の力が強く、財政支出増加率が他国に比べ非常に小さかった。 

経済学が示す政策の中でも、考え方(学派)により大きな違いがあり、その結果はまるで異なってくるであろうし、一つの採用された政策も社会実験のようなもので結果がはっきり分からないのだ。ましてや経済政策の結果の影響を大きく受ける株価の将来など、誰がわかるであろうか。よくネットなどで出ている正しいような理論的ぽい話は、たまたま当たった結果論に過ぎないのだ。経済や金融市場に正解などなく、経済学は社会科学と言って物理学や数学とは違うのだ。科学の前に社会がつく、この社会を科学的に分析しようというものだ。ちなみに物理学も、ニュートンの理論から相対性理論、量子論と移り、ここ何十年間で劇的に変化している。量子論では、透明人間や瞬間移動など可能性は十分あると研究が行われている。今では、一流の物理学者が、ゼロポイントフィールドなどと死後の世界についても語り、宇宙には神がいないと説明出来ないと言うほど、今も分からないことだらけなのだ。